されど、われらが日々
特撮の博物館を作りたい。協力して貰えないだろうか。
某日、古い友人の庵野秀明が唐突に、こんなことを言い出した。2010年の夏のことだったと記憶している。
なんでも、特撮を作って来た人、そして、会社も需要が減ったことで、これまでに作り、保管してきたミニチュア、様々な資料等々が、このままだと雲散霧消してしまう危険性が出てきた。多くの人にとって、それらは、ほとんど意味のないものかもしれないが、特撮ファンの自分としては、やり切れないし、自分以外にも、そういう人はじつに数多くいると思う。特撮を使ったテレビシリーズや映画を見て、子どもの時に、明るい未来を夢見た人は一杯いたはず、いや、いるはずだという庵野の熱意にほだされたが、しかし、手立てがむずかしい。どうやれば、それを実現できるのか?
こういう時は、いろんな人の意見を聞くしかない。
早速、いろんな人を集めて、この話を持ち掛けると、まずは、現代美術館で夏の展示をやるのはどうかという話になった。
どういうミニチュアと様々な資料が残っているのか、まずは、それを調べて所有する人たちの協力を得ることが、博物館実現への第一歩だと言うのだ。非常に現実的な案だった。
説得力がある。と同時に、頭の中で想像が膨らんだ。いろんな特撮のミニチュア群が一堂に会する。お客さんたちにとって、それは意味のあることだし、第一、面白そうだ。所詮、子供だましの造型物だけれども、そこに命を懸けた職人技。
子供だましと言って、いい加減に作ったものは無い。
こういう世界にこそ、じつは、日本人の底力のいい見本があったはず。
こういう時代だからこそ、そうした職人たちの、“されど、われらが日々”を振り返るのも、悪くない。
そして、短い特撮フィルムも作ることになった。庵野の思いついた企画が「巨神兵東京に現わる」。巨神兵のキャラクターを使用する件については宮崎駿の了解を得た。
庵野の盟友、樋口真嗣の参加も決まり、体制は整った。あとは、2012年夏を待つばかりである。
スタジオジブリ プロデューサー 鈴木敏夫