1959年パリに向かった猪熊弦一郎が経由地ニューヨークに魅せられ、この地で画家として再出発したこと、その後、美術の中心がパリからニューヨークに移った時代、高松から川島猛らがアメリカへと出立するなど、いつの時代も国境をまたぐ美術家たちは後を絶たず、未知なる世界に自ら身を置き制作に挑んでいます。
今回の展示では、近年収蔵品に加えられた作品の中から、海外に拠点を置いた作家にスポットを当ててみました。特にドイツが多いことが分かります。ちょうど高松市美術館では、1922年、若干21歳でベルリンにわたり、ダダや構成主義などの新興芸術を吸収した村山知義(1901-1977)の特別展「村山知義の宇宙」展(5/26~7/1)を開催しました。村山から半世紀以上の時間を経て、ドイツに降り立った美術作家には、今回紹介する、海や地平線を「境界」のシンボルとして描くイケムラレイコ、世界中で大型プロジェクトに取り組む西野達、生と死の両義を見せる塩田千春、ドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに学んだ奈良美智(1959年生)と村瀬恭子、同時期に滞在したO JUNらがいます。
また、世代は違うものの、70年代後半には大竹伸朗、90年代後半には春木麻衣子や金氏徹平らが学生としてイギリスに滞在しており、また、さわひらきは今もロンドンを離れることなく制作しています。また2004年ロンドン大学チェルシー・カレッジ・オブ・アートを卒業した志賀理江子は、06年よりベルリンに渡った後帰国し、震災後の現在も宮城県に活動拠点を置いています。瀬戸内国際芸術祭2010の男木島で人気を博した大岩オスカールは、ブラジル移民二世としてサンパウロに生まれ育ち、東京とニューヨークを行き来し、また沖縄生まれの照屋勇賢がニューヨークにあって沖縄の歴史と社会に言及する作品を制作しています。
彼らに共通するのは、物理的に境界線を移動し、思考や視点を少しずつ移行あるいはずらしてみていること。12人の現代美術作家の作品を通して、彼らの挑戦や試みをお楽しみください。