資生堂ギャラリーでは、2012年8月28日(火)から10月21日(日)まで、ニューヨーク在住で台湾出身のアーティスト、リー・ミンウェイ(李明維)の日本初個展「澄・微」(Visible,Elusive)を開催します。
リー・ミンウェイは、1964年台湾、台中生まれ。1989年から93年までカリフォルニア美術工芸大学(現・カリフォルニア美術大学)にてテキスタイルアーツを専攻。同校を卒業後、1997年にエール大学大学院美術学部にて彫刻の修士号を取得。1998年、ニューヨークのホイットニー美術館での個展「Way Stations」で注目を集め、1999年に第3回アジア・パシフィック・トリエンナーレに参加、2003年にはニューヨークのMOMAで個展を開催したほか、第50回ベネチア・ビエンナーレの台湾館に出展し、2012年の第18回シドニー・ビエンナーレにも参加するなど、国際的に活躍しています。
リーの作品は、観客との対話を伴う一対一のイベント型作品と参加型インスタレーションとに大別されます。
1997年、ニューヨークでのデビューを飾った「The Dining Project」は、閉館後の美術館でリーが観客の中から選ばれた人に料理をふるまい、自ら設えた空間の中、一対一で食事をするプロジェクトで、食事という日常的な行為を通じて見知らぬ他人とのコミュニケーションを図りました。一方、2009年にフランスのリヨン・ビエンナーレで初めて行われた「The Moving Garden」は、観客が会場内に置かれた花を一輪取り、帰りに必ず回り道をして出会った他人にその花を渡すことを条件とするインスタレーションでした。どちらも観客に人と人との信頼関係や親密さ、自己認識などについて考えることを促しますが、前者では観客がリー自身と食事、睡眠、散歩、会話などの日常行為を行うことが求められ、後者は観客の主体的な参加に委ねられます。アートと日常の境界を軽やかに取り払い、観客の能動的な参加を促すインタラクティブな作品は、既存の価値観が崩れ、新たな関係性の構築が問われる時代に一石を投じてきました。
本展では、子供時代から残る手作りの布製品を一般から集め、思い出をつづったテキストと共に収めた木箱を来場者が自由に開いて鑑賞する「Fabric of Memory」(記憶の織物)を展示します。本プロジェクトの原点は、母が縫った上着を着ることで幼稚園に行く勇気が出たという幼い頃のリーの思い出にあり、2006年にイギリスのテート・リバプールで開催されたリバプール・ビエンナーレに出展するために初めて実施、2007年には、台湾の台北現代美術館でも行われました。いずれも地元市民を対象に手作りの布製品の提供を呼びかけることで、地域性を重視しています。今回の日本バージョンでは、資生堂ギャラリーのウェブサイトを通じて公募を行い、リーが選んだ16点の布製品とエピソードを展示します。また、来場者が思いを伝え残したい人に手紙を宛てる「The Letter Writing Project」(手紙のプロジェクト)も実施します。あわせてリーが祖母の死への弔いとして、水仙の鉢植えと100日間生活を共にした様子を記録した写真作品「100 Days with Lily」(百日間の水仙)も展示します。
リーの展示は会期中、来場者が各々の個人的な思いを投影し、関わることによって作品が完成していきます。
「時間」を通じて絶えず変化する人と記憶、感情との関係。それらが捉えがたく、脆(もろ)いものであることに焦点を当てた、資生堂ギャラリー初の本格的な観客参加型の展覧会にどうぞご期待ください。