現代社会に潜む支配や抑圧のシステムに対して、批評的かつユーモアのある作品を発表している現代美術家・演出家の高嶺格の個展を開催します。
高嶺の作品の多くは、作家本人が日常生活で感じた違和感や疑問、怒りから着想され、次に展覧会を行う土地でのリサーチや人との出会いの蓄積によって実体化されていきます。本展のために、高嶺は2ヶ月半の間茨城県東海村と水戸市の中間地点の町に滞在しながら作品の構想を練り、制作を行いました。
展覧会タイトルにある「クール・ジャパン」とは、日本人の優れた技術力、きめ細やかなサービス、食からアニメやマンガ、ゲームといった幅広い日本文化を海外に積極的に発信するために日本政府が掲げているキーワードです。しかし2011年3月11日に発生した東日本大震災と、それにつづく福島第一原発の事故の問題はいまだ収束することもなく、政治や企業、マスメディアへの不信感や、人々の感情の分断を引き起こし、改めて日本文化や日本人を再考する気運が高まっています。
高嶺は展覧会に際し、以下のように語っています。「(震災後)私たちはイメージの数多くを目にしてきたけれども、その裏にある見えないものをいかに可視化できるか。その見えないものとは最近生じたものではなく、昔から連綿と続いている。原爆から福島の原発事故に対して、人々がこれまでどう反応しどう抑えつけられてきたか、ということと関連して考えたい。」
本展で高嶺は、戦後から現在にいたるまで日本人の無意識に働きかけてきたイメージや言葉に焦点を当てたインスタレーションを各展示室で展開します。鑑賞者が展示室ごとに異なる高嶺格版クール・ジャパンの世界を訪ねる体感型の新作展示です。
2002年のイラク戦争開戦直前に、高嶺は映像作品「ゴッド・ブレス・アメリカ」でアメリカの巨大な力や、支配と被支配の複雑な構造を描き出しました。そして「ゴッド・ブレス・アメリカ」発表から10年後にあたる本年、3.11を経て高嶺はいよいよ自分の母国である日本に対峙します。高嶺の作品をわたしたちの価値観や倫理観を考察するための機会として提示します。