吉田茂規は1963年茨城県生まれ。87年に和光大学を卒業後、版画や絵画作品を発表していましたが、97年に文化庁芸術家在外研究員としてニューヨークに派遣されたことをきっかけに、活動の場をアメリカに移します。その後、NY市立大学ハンター校に進学し、版画から写真制作へと表現の幅を広げてきました。現在は写真家として活動を続けています。
吉田は、「人の目でははっきりとは見えないものであっても、写真でなら捉えることができるのではないか」という発想から、光をテーマにしたモノクローム作品を撮り続けています。しかし、光とはそもそも実体がなく、何かに反射することによってはじめて認識されるものです。「モノクローム写真は使い尽くされた媒体と思われがちだが、私には、刻々と変化し二度と同じ貌を見せない光を捉える手段(支持体)である」と語る吉田は確信を持って被写体にカメラを向けます。
2008年東京画廊での個展で吉田は、2000年から始まるスクエアーフォーマットのモノクローム写真シリーズ「Identical Light」を発表しました。その展覧会タイトルにある光は、 現在に至るまで吉田の一貫したテーマでもあります。このたびの個展ではその続編とも言えるパノラマフォーマットの新作シリーズ『Ground Bass - Everyday Life and Silence』を発表します。
今回の新作展では、吉田が執拗なほどにこだわる現実世界の陰影がより強調され、音楽でいう「リフレイン」が折り重なるようにも見える作品世界が展開されます。
私たちの日々の生活における活動と休息は、同じフレーズのように日々繰り返される動と静のリフレインとも言えるものかもしれません。 そこに広がるベースのような低音域に耳を澄ませば僅かに聞こえてくるこだまのような音。その音にも似た微かな光を吉田は捉えます。
吉田は「言葉にならないものを言葉にするのが文学の仕事であれば、見えないものを見えるようにするのが写真の仕事かもしれない」と語ります。沈黙のなかに声を聞くことで音楽が生まれ、陰のなかに光を感じるこことで写真が成り立つならば、耳や目だけでなく心そのものが旅をする空間を作りだすことが、吉田をはじめとする写真家たちの本当の仕事なのかもしれません。
本展では、吉田の最新シリーズから、シルバープリントのモノクローム作品約30点を展示します。