水辺の柳の下で鳥が遊び、魚が悠々と泳ぎ、空には鶴が舞う。身近に見られる自然の情景は、高麗時代の青磁や金属器といった工芸品の文様として特に好まれた画題でした。これらは繊細な線であらわされ、静謐な美が生み出されました。朝鮮王朝時代に入ると、動植物のユーモラスとも見られる姿が大らかで力強い線であらわされるようになります。また自然を主題とした絵画では、文人が求める理想的な世界が水墨による山水図として展開されました。
統一新羅から高麗時代にかけては、仏教の信仰が隆盛します。遼(契丹)や元による侵攻を長年に渡って受けた高麗時代には、仏やその教えを荘厳して護国安民を祈るために、華麗な文様が描き込まれた仏画や金銀泥が用いられた煌びやかな経巻が数多く制作されました。これらの作品は、当時の社会的な背景とともに人々の日常や理想の風景、また心情の一端が形ある美しさの中に体現されているといえます。
本展覧会では、朝鮮半島における身近な自然の中に見出された美と、信仰の祈りが込められた装飾の美しさを絵画や陶磁器、金工などから御覧いただきたいと思います。また特別出陳として舎利や仏像を納めるための容器や厨子、香炉など仏教工芸品の他、水鳥たちが戯れる情景があらわされた高麗青磁の陶板をお借りし、展示いたします。
自然や信仰と深く結びついて生み出されたそれぞれの造形の美しさとともに、作品に込められた想いやこれらに対する眼差しを感じていただければ幸いです。
(担当 瀧朝子)