高橋余一(たかはしよいち)の描いた「生活絵巻」は、明治期から昭和期にかけて加茂郡古井村(かもぐんこびむら、大正13年からは古井町、現・美濃加茂市)に暮らした人々の日常をシンプルな画風で描いたものです。
余一の死後、遺族によって絵巻に仕立てられ、1993年(平成5年)には貴重な記録資料として美濃加茂市指定有形文化財に指定されました。
高橋余一は、1898年(明治31年)古井村に生まれました。若い頃、大阪に出て簿記学校へ通うかたわら、京都の絵画塾で日本画を学びました。帰郷後は小学校の代用教員や会社勤めをします。定年退職後、病に倒れ自宅で療養生活を送ることになりました。医者に散歩をすすめられ、町内を歩くうちにふるさとの暮らしや文化をのこしたいという気持ちを強くします。そして自らの記憶をたどり得意だった絵で記録し続けました。
「生活絵巻」は、農業や養蚕をはじめとする生業、祭りや年中行事、時代の流行もの、さまざまな習俗の有様が自然な構図でとらえられ、淡い彩色で仕上げられています。添えられた文とともに「記憶」の遺産として歴史的な価値が極めて高いものです。
高度成長期とともに消えていった古井の日々の風景が「生活絵巻」にはあります。本展では、失くしてはならないものを伝えようとした余一の心にふれていただき、余一のそして私たちにとっての‘暮らしのありか’を探していただければ幸いです。展示数約40点。