フィンランドの森に住むトロールの「ムーミン」は、画家で作家のトーヴェ・ヤンソンが生み出した童話『ムーミン』の主人公です。ムーミンが家族と一緒に森で暮らし、厳しい自然環境の中で自由と冒険の精神を育んでいくことを主題とするこの物語は、フィンランドの風土やライフスタイルを学ぶための良きバイブルともなっています。
トーヴェ・ヤンソンが生きた20世紀、フィンランドのモダンデザインは、近現代の建築・デザイン史において独自の位置を確立し、1950年代以降、国際的に高い評価を得てその後の世界のデザインシーンに大きな影響を及ぼしました。「全ての人々にとって、あらゆる観点から良いデザイン」を追究するフィンランド・モダンデザインの系譜は、今日の「ユニヴァーサル・デザイン」や「エコロジー・デザイン」の原点にもなっています。これらデザイン哲学の根底にあるのは、『ムーミン』の中でも示唆されている「人間と自然との共存」や、「家庭や地域コミュニティでの相互扶助」を重視する、フィンランドの伝統的かつ本質的なライフスタイルに他なりません。
ムーミンをガイド役に、約350点を展観する本展では、フィンランド芸術の根幹となっている19世紀末から20世紀前半にかけての民族主義を俯瞰するとともに、トーヴェ・ヤンソンによる『ムーミン』の原画、アルヴァ・アアルトやカイ・フランクの製品デザイン、マリメッコのテキスタイル、さらには現在の公共デザインでの取り組みを紹介し、時代と地域を超えるグッド・デザインを生み出してきたフィンランドの真髄を探ります。