室町時代の屏風の一つに、金属で作った月を画面に貼り込んだものがあります。現代の多くの日本画のように、タブローとしての考え方が強く働いている絵画と違って、調度品として作られたせいか、素材は比較的自由に使用されていたようです。
また、19世紀後半のヨーロッパでは、チューブ入り絵の具の発明によって、画家は戸外での制作が可能となりました。
マテリアルなものが、表現の様式や方法にどのように反映されるのか。あるいは、表現へのインスピレーションがどのような素材を呼び寄せるのか。これらは、私が絵を描き始めた頃からのもっとも関心のある事柄でした。
幼児期のクレヨンでの表現に始まり、水彩や油彩や版画、岩絵の具など、素材の違いによってそこに盛られる感覚や思想も、何か異なったものになるように思われました。
そして、変貌して止まない現代社会の中にあって、次々に立ち現れる事象に対してどのように向き合ったら良いのか。いつも生き方が問われ続けます。
自分の気持ちを忠実に表現しようとする時、それに相応しい素材や表現方法を模索しないではいられませんでした。一つの方法だけでは、十分ではないと感じられたのです。
様々な状況の中で描かれた作品は、異なる表情を持ち、一見何の脈絡もないように見えるかもしれませんが、そうした変化そのものの中に、共通する創作の姿勢を認めていただければ幸いです。
どうか、ご高覧ご批評の程、お願い申し上げます。