「洋画」の呼称は我が国独特のものです。油彩の技法やそれに伴う思想は西欧での長い歴史を経て発展しました。それは日本の絵画伝統とは大きく異なるものであり、それ故に油彩表現をわがものにしようとする日本人画家たちの苦闘が続いたのでした。素材・技法が多様化し、映像などによる芸術が増大する今日では、「洋画」という呼び名の問い直しがなされています。しかし本展で扱う時代は、西欧の油彩表現を受容し、日本におけるあり方を模索した明治から昭和の終戦以前までの、「洋画」の概念が重みを持っていた時代です。
本展は、明治維新後の国による政策に沿った美術教育機関である工部美術学校で学んだ画家たちの作品にはじまります。それは外光表現を取り入れた作品で耳目を集め、東京美術学校で教鞭を取った黒田清輝や国による公募展である文部省美術展覧会が権威をもつ時期につなかっていきましたが、一方では岸田劉生などの若い画家たちが個性の尊重を謳う大正ヒューマニズムに後押しされて新しい表現を追求した結果、二科の発足をはじめとする在野の活動も生まれました。またパリは芸術の都として多くの画家の学びの場となりましたが、そこで吸収されたものは画家それぞれによって、そして留学時期によって異なります。加えてヨーロッパにおける前衛運動に影響を受けた画家たちの存在感も見過ごせません。それらの画家たちが確立していった独自の様式が日本的油彩をかたちづくっていくさまはスリリングです。しかし1931年の満州事変にはじまる戦争が、「洋画」の発展を一時停止させたのでした。
本展は愛知県美術館の全面的なご協力を得て、実現可能となりました。45作家49点のそれぞれは同館の優れた所蔵品群の中でも第一級の名品です。どうぞ近代日本の「洋画」の粋をご堪能ください。