創作版画とは、明治末期から大正期にかけて沸き起こった版画運動を起源とし、伝統的な錦絵の分業スタイルに対し、下絵の作成から彫り、摺りのすべてを一人で行う自画自刻自摺の、主に木版画を指します。いわばそれまでの工芸的な版画から、芸術性を前面に押し出した近代日本の成長過程のなかに現われた美術運動でした。
日本創作版画協会が大正7年に結成され、その第1回展に萬鉄五郎も出品しています。彼自身、版画には大正初期から取り組み、表現主義的な作品が知られ、版画も表現の一形態として、晩年にいたるまで断続的に発表しています。このように岩手の創作版画の起源をひも解けば、萬鉄五郎に行き着きます。萬を基点として、創作版画の岩手という地域的括りのなかで、大正期から現代までの流れを見ていこうとするのが本展のねらいです。
今日、版画の技法も多様化し、その概念さえも揺らぎつつあり、新たな地平を切り開こうとしているのも版画という表現手法の特徴といえます。たしかに創作版画といっても、初期からその技法は木版画に限られるものではなく、銅版画をその概念で制作したものもあって、創作版画を木版に限定するのはいわば片手落ちということになります。
そこで今回は、岩手創作版画の系譜の第1弾として、木という素材に限定し、技術的な変遷もさることながら、木版を通して表現性がどのように培われ、変遷してきたか検証を試みたいと思います。近代から現代まで14人の版画作家によって、2部構成でその表現性をみていきます。