ごあいさつ 《南桂子の詩と童話の初公開のお知らせ》
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは、今年も銅版画家・南桂子の展覧会をいたします。どこか懐かしい、詩情あふれる銅版画には、この数年、特に若い年代を中心に静かな人気が広がってきています。昨年は生誕100年を記念し、全国で巡回展が開催されました。
南桂子が、戦後の一時期、壺井栄に師事して童話を書き、新聞に発表していたことは知られています。ところが昨年、本人の手書きの原稿類が大量に見つかり、版画制作と並行して豊かな文学活動をしていたことが分かりました。当館で整理したところ、完成された作品は詩3篇、童話は52篇にのぼりました。ほとばしる空想力や優しいものを包むまなざしがどの作品にも結晶しています。今回の展覧会では、作家の豊かな内面の世界を紹介するために、一部を初公開します。
展覧会タイトルになった「船の旅」は1953年の冬、銅版画を学ぶためにフランスに渡る、その船の中で書きつけた短い詩です。七章からなる詩(第六章のみ1960年に個展で発表)は、台湾、香港、シンガポールと寄港しながら見知らぬ新天地をめざす作家の真っ白な希望をたたえ、後半は異国情緒あふれる物語へと変化してゆきます。旅の途中に描いたスケッチと併せて展示いたします。
童話は、数ある中から、夢や色彩にあふれる作品を選んで公開します。森の小さな湖で起こる月夜の不思議な物語「金と銀の魚」、見知らぬ世界を知りたかった「一匹のめだか」、希望みなぎる「毛虫の旅行」「二つの種」、赤い椅子と美しい鳥が追想する「ホテルの夜」の5編です。
南桂子の詩と童話と版画、なつかしく新しい、それぞれの世界をご鑑賞ください。
※童話「ホテルの夜」のみ当館でつけた仮のタイトルです。
※詩と童話につきまして、現時点で過去に発表された形跡がないものについて「初公開」としておりますが、今後の調査により変更になる可能性がございます。