高橋由一(たかはしゆいち、1828―1894)は佐野藩士の子として江戸の佐野藩邸に生まれました。体が弱かったため家業である武道指南を断念、絵の上手だった由一は刀を絵筆に持ち替えて絵画修業に打ち込みます。当時珍しかった西洋の石版画を目にした由一はその迫真の描写に感激し、なんとしても西洋画を学ぼうと努力しました。
由一にとっての西洋画は、たんなる好奇心の対象や自己表現の場ではありませんでした。対象を正確に描写し、耐久性にもすぐれた西洋画は、当時大きく変化しようとしていた日本という国家にとって有益なもの。そう考えた由一は、西洋画の技術の定着と普及を国家のための事業と考え、生涯を捧げました。もし高橋由一がいなければ、今日の日本の美術は私たちが見ているものとはまったく違ったものになっていたかもしれません。
昨年度、栃木県立美術館では高橋由一の油彩画《驟雨図》を基金取得しました。由一がイタリア人画家アントニオ・フォンタネージの影響を受け、油彩画の表現に一層の深みを加えた1877(明治10)年頃の制作と考えられる作品です。
今回の特別展示では、新収蔵された《驟雨図》に加え、同時期の油彩画《中州月夜の図》、山形、栃木の県令を歴任した三島通庸の道路建設事業との関わりから制作された《栗子山隧道図(西洞門・小)》、《鑿道八景》、《東北新道石版画》などを展示します。また由一が師事したイギリス人画家チャールズ・ワーグマンの作品をあわせて展示します。