奈良大和路の風土と美を愛した写真家・入江泰吉が亡くなって20年が経ちました。亡くなる前年、全作品と著作権を奈良市に寄贈し、それを機に建てられたのが奈良市写真美術館です。
入江はこれを一つの節目として、約半世紀にわたる自身の仕事の集大成という意味を込め、寄贈した約8万点以上のフィルムから100点のカラー作品を代表作として選びました。それが「奈良大和路春夏秋冬」です。
「奈良大和路春夏秋冬」というタイトルは、四季折々の微妙な自然の移り変わりの一瞬に余情や歴史の気配を見出し、長年にわたって大和の美を追求してきた、入江の撮影姿勢そのものをあらわしています。
また、晩年精力的に撮影していた「万葉の花」も、生前に自信作100点を選び、当写真美術館に寄贈しました。これらの作品群は、入江の大和路撮影行の集大成であり、彼が残したメッセージともなっています。
このたび開館21年目を迎えるにあたり、「奈良大和路春夏秋冬」と「万葉の花」シリーズからさらに作品を絞り込み、約120点を紹介します。自らの眼で選び抜いたこれらの代表作を通じて、奈良大和路の風土、歴史、文学が一体となって醸し出す奥深い美と魅力に触れていただければ幸いです。