昭和前期の日本美術界に大きな足跡を残し、36歳で夭折した画家松本竣介。今年は、彼の生誕100周年に当たります。1912(明治45)年に東京で生まれた松本竣介は、少年時代を岩手で過ごし、12歳のときに病気で聴力を失ったことをきっかけの一つとして画家を志しました。上京後は多くの芸術家たちと交流を持ちながら制作に取り組み、1935(昭和10)年に第22回二科展に《建物》で初入選、以後《郊外》《立てる像》などの作品を発表しました。
彼の作品は、建物や人々が幾重にも重なり合う都会風景、鉄橋や建物の尖塔などを描いたもので知られています。また1936(昭和11)年にはデッサンとエッセイの月刊誌『雑記帳』を創刊するなど、文芸活動にも取り組みました。しかし戦後に入り、新たな世界を構築しようとしていた矢先の1948(昭和23)年6月、持病の気管支喘息のためにその生涯を閉じました。
本展は、松本竣介の生誕100周年に相応しい内容として、松本竣介の作風や描かれたテーマに応じて全体の構成を4章に分け、代表作の油彩約120点のほか、彼の創作活動を知る上での手掛かりとなる素描作品も多数ご紹介します。また当時の写真や友人宛の書簡などの資料類も合わせて展示し、人間としての松本竣介像にも迫ります。
戦争という激動の時代においても自己の求める芸術の道を深く追求した竣介の作品は、静謐な中にも深い詩情をたたえています。震災の記憶が色濃く残る今だからこそ、日常の生活を通じて普遍的な美にたどり着くことを目指した彼の作品は、大きな存在感を持って私たちに強く印象付けられることでしょう。