昨年の3月11日に起きた東日本大震災から1年が経ちました。復興・復旧が進められる一方で、いまだ避難生活を余儀なくされ、生まれ育った土地に思いを寄せる被災者の方々もおられます。
歌川広重の最晩年作≪名所江戸百景≫刊行開始の前年、江戸は未曽有の震災「安政の大地震」(安政2年(1855年))に襲われました。
また刊行開始の安政3年にはアメリカ初代駐日総領事ハリスが下田に着任するなど日本は政治外交の面でも大きな岐路に立たされていました。
このような時期に刊行された≪名所江戸百景≫には、震災の爪痕、社会の政治的混乱を感じさせるような不安感は漂わず、明るく美しい日々の穏やかな生活、大都市江戸の伝統と歴史が生き生きと描かれています。
≪名所江戸百景≫は人々の絶大な支持を受け「百景」と題されていながらも、総点数は100点を超えるほどの人気作となりました。制作半ばで広重が没しましたが、弟子の二代広重が後を引き継ぎ安政6年に完成にいたった幕末浮世絵の大規模なシリーズです。
本展では構図や描かれた場所に注目し、江戸っ子が愛した江戸名所絵の決定版≪名所江戸百景≫の魅力をご紹介します。
また被災から復興の過程において江戸の人々が制作し、多くの人々に買い求められた≪名所江戸百景≫をご覧いただくことを通じて、東日本大震災の被災地、被災者の方々の現状とこれからの課題に私たちができることを今一度考える機会となれば幸いです。