小鉢公史(こばち・ただふみ)の作品は高さ2mを超える大作もまれではない。いずれも一本の楠から彫りだされ、小鉢は木の形にそって、そこから生命を紡ぎだす。
彫り出された彫像はアクロバティックなバランスを保ち、異形とさえいえる。だが、瑪瑙棒で磨き上げられて大理石を思わせる滑らかな肌合い、一木から彫られたとは思えぬ繊細な表現は、独特な顔の表現と相まって、異形を古典的とさえいえる激しくも静かな美に昇華させている。
昨年8月の台北アートフェアに、小鉢の大小2作品の初めての海外出品を試みた。この異形の美がどう捉えられるだろうか?結果は驚くほどの関心の高さであった。写真をとる人が多いのは常のことだが、台北のフェイス・ブックに「フェアの中で一番興味があった作品」として紹介され、2点とも販売に成功した。
小鉢を「遅れてきた大型新人」とよぶ声もある。たしかにここに至るまで少々の時間を経た。かつてとらわれていた“死”へのトラウマから遅ればせながら解放されて“生”の表現にたどりついたのは、新しい生命の誕生により父親になった頃からであったろうか。
小鉢は自分の作品には「生・性・聖」が潜んでいる、という。樹木から生まれた彫像は、大人のエロスを漂わせ、聖性にまで至ろうと佇んでいるようだ。