この度、東京画廊+BTAPでは平良美樹個展『イキモノ譚(ばなし)』を開催いたします。
平良美樹は1984年生まれ。東京学芸大学書道専攻を卒業後、日本の昔話をテーマに書を用いた立体作品を制作しています。2006年のGEISAI#10で銀賞を受賞して以降、国内外のグループ展、アートフェアで作品を発表しています。
平良は地方に伝わる口承文芸をもとに作品制作を行います。麦茶で染められ、縫い合わされた硬い麻布が登場人物となって立ち上がり、その表面には物語が漢字と片仮名でぎっしりと書き込まれます。布の質感と文字の筆触が古色を漂わせる一方で、抽象化された作品のフォルムはどこか滑稽で、独特のユーモアをもたらします。
物語中では固有名詞で登場人物が語られることはなく、人物の特定はなされません。顔を持たない平良の立体作品は、匿名性を仄めかしながら、様々な物語に共通して現れる先人の精神を彷彿させます。日本の昔話では動物が人間へと(または人間が動物へと)変身し、同じ表情・ことばで語り始めます。自然と人間は不可分であるという独特の世界観のもとで、あらゆるイキモノのイメージが混淆してゆくのです。平良の作品は、口承の伝統を墨による筆記という異なる位相に転移し、また立像のテクスチュアとして組み込むことで、その世界観を視覚表現に昇華するのです。
「昔話は、文字を介さず人の口から耳へ語り継がれ伝えられてきた。語り手から放たれた声は時間的に戻ることはなく、そのまま人の記憶に残っていく。その伝承のスタイルと、筆と墨で書字すること(筆に含んだ墨が紙、布に落ち墨がなくなるまで伝わり、書かれた文字は戻ったり消されたりすることはないこと)には、とても近い感覚を覚える。」
平良にとって初の個展となる本展では、「牛の報恩」、「熊になった兄弟」、「猫遊女」の三つの物語をもとに、これまでよりスケール感の増した新作3点を展示いたします。麻布を素材の中心に据えてきた過去の作品に対し、新作では毛皮や和紙を大胆に用いるなど、新たな造形に挑んでいます。
本展会期中に開催予定のアートフェア東京2012においても、平良の作品を複数展示する予定です。皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げております。