(企画趣旨)
近年、素朴で自由な感性と平易ながらも瑞々しい言葉で綴られた童謡詩人金子みすゞの世界が、改めて見直されています。
大正時代は「子どもの時代」とも呼ばれています。子どもが持つ純粋性や素朴さ、自由さを高く評価した当時の文学者や芸術家、知識人は、子どもの感性を美しいものとし、それを守るために情操教育に力を注ぎました。子どもたちに芸術性が高く美しい文章を読ませようと、童話・童謡を普及させる風潮が出て来ましたが、その代表例としてとして鈴木三重吉によって『赤い鳥』が発行され(大正7年)、芥川龍之介や有島武郎、北原白秋、西条八十など一流の文人が作品提供して雑誌に参加したことを鑑みれば、この時代の子どもという存在に対する大人たちの関心の高さをうかがわせます。そしてその発刊に刺激され、『おとぎの世界』『金の船』『子ども雑誌』『童話』などが次々に発行されました。
詩人・金子みすゞの誕生にはこのような時代背景があり、みすゞの詩人としての出発点としては、西条八十の推薦により『童話』『金の船』『婦人倶楽部』『婦人画報』などに同時投稿したのが始まりと言われています。金子みすゞの研鑽は端緒についてばかりですが、それよりも大切なことは、金子みすゞの詩を読むことによって、現代社会に「心の時代」を取り戻そうとする大衆運動が全国的に広がっているということです。
本展の目的は、大正時代の「心の美しさ」をみすゞの童謡と子ども絵の世界を観照し体感することにあります。現代における物質主義、拝金主義、科学主義への反省として、多くの人々に何かの想いをもたらす機会になることを願うものです。
(展示内容)
金子みすゞの誌と大正時代の子どものイマジュリィ(雑誌挿絵、表紙絵、写真、絵はがきなど)を展示します。大正時代の人々は子どもをどのように見ていた(育てていた)のでしょうか。大正時代の子ども絵と金子みすゞの誌世界に通底する純粋性と素朴さを重ね合わせることで浮き上がる世界をお楽しみ下さい。