折々に咲く花々や鳥たちの鳴き声、空気の質感、日月星辰。移りゆく季節の中で人々は、時に心を躍らせ、時に悲しみを同化させ、自己の人生に重ね合わせて四季を生きてきました。花々や鳥に代表される美しい日本の風土は、われわれのかけがえのない友と呼ぶべきものです。そんな自然の美しさを多くの作家たちは、絵絹にとどめました。
今回の展覧会では、日本人の心の原風景に必ずある桜花を中心に花鳥風月をモチーフとした作品を展示いたします。四季の移り変わりや自然の美しさを柔和な表現で描き続けた小野竹喬の「春の芽」は、ほころび始めた桜のつぼみで暖かい春の訪れを表現しています。下田義寬の「風眩」は、朝焼けの中、桜の樹林を駆けぬける一羽の鳥が描かれており、そこには春の一刹那の美しさが凝集されています。そして、横山大観の「皓月」は、満月に照らされた波間を飄々と渡る風を巧みに捉えています。作家たちは様々な表情を見せる美しい自然に、自らの思いを重ね、作品を生み出してきたのではないでしょうか。
本展覧会を通じて、作家たちによって表現された自然の美しさ、そしてそこに込められた様々な思いを感じていただければ幸いです。