資生堂ギャラリーでは、2012年4月7日(土)から6月17日(日)まで、英・ロンドン在住の若手日本人アーティスト、さわひらきの個展「Lineament」を開催します。
さわひらきは、1977年石川県生まれ、ロンドン在住の若手アーティストです。1996年、イギリスのイースト・ロンドン大学に留学。同校を卒業後、ロンドン大学スレード校美術学部にて彫刻の修士号を取得。当初は造形を専攻しますが、後に映像表現へと転向します。2002年、イギリスで発表した映像作品『dwelling』で注目を集め、以降、ロンドンを拠点に世界各国で作品を発表しています。これまでに、横浜トリエンナーレ2005(2005年、横浜)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ6(2009年、ブリスベン、オーストラリア)、成都ビエンナーレ(2010年、成都、中国)、シドニー・ビエンナーレ(2010年、シドニー、オーストラリア)などの国際展や、「Six Good Reason to Stay at Home」National Museum of Victoria(2006年、メルボルン、オーストラリア)、「アーティストファイル」国立新美術館(2008年、東京)、「Carrousel」Musee du Temps and Musee National desBeaux-Arts de Besancon(2009年、ブザンソン、フランス)、「山荘美学―日高理恵子とさわひらき」アサヒビール大山崎山荘美術館(2010年、京都)などに出展しています。
さわはこれまで、自身が体験した、日常のささやかな出来事からのインスピレーションをもとに作品を制作してきました。『dwelling』(2002年)、『elsewhere』(2003年)、『trail』(2005年)をはじめとした初期の作品では、自宅の部屋の中に、自分が慣れ親しんだ飛行機のおもちゃ、食器、文房具、動物の影などが動き回るという、日常空間のなかに寓話的イメージを紛れ込ませた幻想的な情景を映しだし、多くの観客を魅了してきました。近年では、マルチスクリーンによる映像投影に音響効果を加え、それらを展示空間に立体的に設置することで、映像を鑑賞するというスタイルから、体験するインスタレーションへと変化させ、映像表現の可能性を模索しています。2009年にオーストラリア・ブリスベンで開催されたアジア・パシフィック・トリエンナーレ6では、先住民が暮らすオーストラリアの風景を巡りながら、さわが感じた自身の内面との共鳴を、廻りながら繋がって行く時間と捉え、映像と音を通して空間に表現したインスタレーション作品『O(オー)』(2009年)を出展し、新しいさわの表現領域を提示しました。
さわは近年、友人の記憶喪失をきっかけに、「Figment(フィグメント)」というプロジェクトに取り組んでいます。同プロジェクトは、さわが「記憶について/思い出すこと」を考察した一連の作品群であり、記憶に対するさわの解釈を表現しています。「記憶喪失になったことによって、食べ物の味すらもわからなくなるということは、いかに自分たちの日常が、記憶に頼っているかをあらわしているのではないか」と語るさわは、記憶を失うことにより生じた「ずれ」が、現実を揺るがすことに興味を持ちました。本展で初公開となる映像インスタレーション作品『Lineament(リニアメント)』では、ある男が虚構と現実の境界が揺らぐ部屋のなかで記憶を辿る姿を描いており、「正常」というものが、いかにあいまいなものなのかということを考えさせてくれます。本展では、これまでにFigmentプロジェクトとして制作された『did i?』と『Sleeping Machine』もあわせて展示します。
これまでさわの心象風景を映像化したようなイメージから、よりシュルレアリスティックに変化した、さわの新しい作品世界にどうぞご期待ください。