生命力溢れる靉嘔の世界。その初期から新作までを網羅する回顧展を開催します。1931年、茨城県に生まれた靉嘔は、1950年代、池田満寿夫らと共にデモクラート美術家協会に参加し、明るい色彩の油彩画を発表し注目されました。1958年にはニューヨークに渡り、知覚によって認識される世界を具体的な物との対話によって改めて捉えようとする中で、箱の穴に指を入れ鑑賞する《フィンガー・ボックス》や、周囲の環境を取り込んだインスタレーション等、絵画の枠にとどまらない人間の五感に訴える作品が生まれます。日常の事物や行為そのものがアートに変換された1960年代、靉嘔の「エンヴァイラメント」と呼ばれるインスタレーションは先駆的な表現として注目されました。音楽家、詩人、美術家等ジャンルを超えたアーティスト達が交わり、パフォーマンスや印刷物の製作等を通し、今日のアートの多様性のあリ方に一つの礎を築いたグループ「フルクサス」のメンバーとしてオノ・ヨーコやナム・ジュン・パイクらと共に活動します。やがて、線で描く絵画を拒否し、引用したモチーフに赤から紫までの可視光線(スペクトル)を重ねる「虹」の作品が生まれ、ヴェニス・ビエンナーレ(1966年)での発表等を経て、靉嘔は「虹のアーティスト」として国内外で知られるようになります。靉嘔の虹との格闘は、版画、絵画、インスタレーションと様々な形式により、現在まで続いています。本展では、数多くの虹のシリーズやパフォーマンスのドキュメントの他、触れて楽しむ体験型のインスタレーションや192色の虹色で描かれた30mにおよぶ新作、1987年にエッフェル塔にかけられた300mの虹の帯等を大規模に展示します。展示室いっぱいに広がる靉嘔のオプティミスティックな世界をお楽しみください。