同時代に生きる歌舞伎俳優の容姿をうつす木版画家として独自の地位を占めている弦屋光溪(つるや・こうけい)は1946(昭和21)年に茅ヶ崎に生まれました。
青年時代、染色家の道を志すも断念、会社勤めのかたわら木版画や絵画の制作を続けていましたが、78(同53)年、歌舞伎観劇をとおして自分なりの役者絵の創造を決意します。それは絵師・彫師・摺師の分業による伝統的な浮世絵版画の制作方法とは異なる自画・自刻・自摺の木版画ですが、作品自体は紛れもなく江戸以来の役者絵の系統をひくものといえるでしょう。
本展では78年から22年間にわたり制作された、歌舞伎座内での役者絵シリーズのほか、人物画や花をモチーフとした作品100余点と版木を展示します。これは弦屋光溪の全貌を紹介する回顧展であると同時に、「独学独創独行」を座右の銘として制作に邁進する作家の今後の活動の原点ともなる展覧会です。