20世紀のアメリカを代表し、社会派の作家として知られるベン・シャーン(1898-1969)の芸術を、絵画、素描、版画、ポスターなど約200点とオリジナル50点にデジタルイメージなどによる約250点を加えた写真によって紹介します。日本では1991年以来約20年ぶりの回顧展です。
コヴノ(現在のリトアニアのカウナス)のユダヤ人家庭に生まれ、迫害を逃れて幼い頃に家族とアメリカに移住したシャーンは、「サッコとヴァンゼッティ事件」「トム・ムーニー事件」などの冤罪事件を告発する作品で注目され、大恐慌から第二次世界大戦にかけての期間に国などの事業に関わった後、個人的な誰にでも共有される普遍的なことがらを主題とする作品を制作するようになります。
アメリカのハーバード大学付属フォッグ美術館の協力を得て開催される本展は、シャーンの創作において重要な役割を持ちながら日本ではあまり紹介されることがなかった写真作品に光を当て、あるイメージが絵画や素描、版画、ポスターなどの表現手法において多様に変化して用いられ、豊かな表現世界を生み出していることを作品に即して紹介します。
また、代表作である〈ラッキードラゴン〉シリーズをはじめとして、深い関わりのあった日本との関係を、シャーンの創作と日本への影響のふたつの側面から紹介します。
本展は、「ドキュメンタリー、そして社会への告発」「『私』から共感へ」「文字への愛、神話の力」「アジア、そして日本へ」という4つのテーマのもとにシャーンの造形の魅力を解き明かします。深い人間愛と揺るぎのない良心に貫かれたシャーンの芸術は、混迷する今日を生きる私たちに安らぎと励ましをもたらすでしょう。