藤牧義夫(1911-1935?)は、創作版画の分野で1930年代に活動した木版画家です。1911年に群馬県館林に生まれ、少年期から絵の才能を示し、16歳で上京して働きながら独学で木版画を学びました。1932年に小野忠重ら22名によって結成された新版画集団に参加して頭角をあらわしますが、1935年に行方が分からなくなります。藤牧は、関東大震災後に復興した1930年代の東京の風景を、上野や浅草などの町並みを中心に、独特の彫りによる木版画で表現しました。また、近世の伝統を継承しつつ、現代的な感覚で隅田川などに取材する長大な白描絵巻を描いています。藤牧義夫は、ごく短い制作活動ゆえに幻の版画家として一度は埋もれかけましたが、1978年の展覧会により再び注目を浴びました。
本展は、藤牧の生誕100年を記念して、失踪前に残された版画・素描・白描絵巻・資料約200点で構成し、白描絵巻の全貌を紹介する映像展示など画期的な試みを加えて展観するものです。