山梨県に生まれた浅川伯教(のりたか)(1884-1964)と巧(たくみ)(1891-1931)の兄弟は、大正初期に朝鮮半島に渡りました。彼らは朝鮮家屋に居をかまえ、現地の人々に溶けこみながら暮らします。やがて伯教は朝鮮陶磁研究の第一人者となり、また弟の巧も朝鮮の陶磁器および木工品について名著を残しました。彼らの活動で特筆されるべき点は、高麗青磁に比べ低く見られていた“李朝”-朝鮮時代(1392-1910)の陶磁器に世界に先駆けて注目し、その美を日本に紹介したことです。
1920年代以降、浅川兄弟の活動によって李朝の陶磁器や工芸品は一躍注目を浴びることになります。ふたりは時代を代表する陶芸家、研究者そして数奇者たちが朝鮮時代の美術を理解するためのよき協力者、導き手となりました。なかでも、彼らが柳宗悦(1889-1961)に影響を与え、そこに河井寛次郎(1890-1966)、濱田庄司(1894-1978)、富本憲吉(1886-1963)たちが加わったことによって、「民藝」運動は具体化していきます。
残念なことに巧は若くして世を去り、戦後、朝鮮から帰国した伯教も時代の変転のなかで調査や研究の成果を充分にまとめることなく歿しました。
本展は、浅川兄弟と柳宗悦が選び抜いた陶磁器や木工品をはじめ、伯教作の絵画資料や陶芸作品、柳自筆の原稿、そして同時代の陶芸家たちの作品など約200点を通して、今日改めて評価の気運が高まる浅川兄弟の事跡を、はじめて体系的に紹介するものです。