19世紀フランス象徴派を代表する画家であり、日本でも人気が高いモーリス・ドニ(1870-1943)。17歳でパリの美術学校に入学したドニは、ここで知り合った友人たちと新しい芸術を模索しはじめます。自然を模倣するだけでなく、純粋な色彩と単純な形態によって人間の心の奥深くを描こうとしたゴーギャンの影響を受け、彼らは「ナビ派」(ヘブライ語で預言者の意)と呼ばれるグループを結成しました。
ナビ派が解散した後も、ドニは独自の感覚で古典的な美しさを追求し、芸術と信仰が調和する作品をつくりあげました。自らも敬虔なカトリック信者であったドニは、優美な曲線と神秘的な色彩によって、平和で幸福なイメージを身近な光景のなかに描き込みました。
神話や聖書の場面を多く描いているドニですが、実際には「家族」や「子ども」が重要なテーマであったことが、近年指摘されています。ドニの作品には、子どもや家族の親密な情景が頻発に登場します。パリ郊外の自宅や、ブルターニュでのヴァカンス、海外旅行まで、あらゆる場面でドニは愛する子どもたちを描きました。ある時は神話や聖書の物語のなかに、ある時は装飾画のなかにも、その姿を発見できるのです。ドニにとって「子ども」という存在は、家族の枠組みをこえた「生」の象徴であったといえるでしょう。
本展は、描かれたドニの家族や子どもたちの成長をたどることで、その芸術の変遷を再考する日本で初めての試みです。フランス内外の美術館、個人所蔵の作品に加え、世界初公開作品を含む約100点を展示します。