国宝「一字蓮台法華経(いちじれんだいほけきょう)<普賢菩薩勧発品(ふげんぼさつかんぽつぼん)>」は、平安時代の装飾経を代表する作例であり、当館の書蹟コレクションの核となる作例です。見返し絵の部分には、法会(ほうえ)の様子を描いた大和絵が添えられますが、注目されるのが経文(きょうもん)です。一文字一文字が蓮台に載り、金輪が付されます。一字一字を仏身に見立てているためであり、金銀の切箔(きりはく)や砂子(すなご)を散らした美しい料紙(りょうし)にしたためられた文字は、究極に洗練され抽象された仏の姿といえるでしょう。このように一字一仏の思想を反映した経典は、他にも作例が知られます。展覧会では京都国立博物館所蔵の「一字蓮台法華経」、本満寺所蔵の「一字宝塔法華経」、黒川古文化研究所の「法華経断簡」を特別出陳いたします。諸作例との比較を通じ、当館の一字蓮台法華経の特色、一字一仏の思想について考察する契機としたいと思います。
この他、虎関師錬(こかんしれん)や清拙正澄(せいせつしょうちょう)といった高僧の遺墨は、その人物の人となりを今に伝える作例です。また、天皇や公家たちの流麗な書からは、彼らの高い美意識を味わうことが出来ます。
多様に展開する書の魅力に迫ります。
なお、会期の後半には、展示場を囲む文華苑にて梅がほころび始めます。ほのかにただよう梅の香とともに、書の世界をお楽しみ頂ければ幸いです。