さあ、ご覧ください見てください、この冬まれなる展覧会、「石子順造的世界」の開催でございます。
高度成長まっ盛り、テレビにマンガにビートルズ、学生運動アングラポップ、反芸術にハプニング、うねりにうねった喧噪の昭和40年代を一身に引き受けた評論家がありました。美術とあわせてマンガを論じ、そうかと思えばキッチュを語る。10年ほどの活躍を残しこの世を去った個性にあふるるこの男、石子順造とは何者であったのか。
「現代美術」とは、いや「現代」とは、いやいや「近代」とは――前のめりの角張った言葉をたずさえて、深く広い視覚文化を徹底的に、いやテッテ的に掴まんとペンを走らせたその足跡は、今なお活き活きと輝いております。さて現在は、そのけばけばしくも豊穣な世界をいかに引き受けることができるのか。
美術発マンガ経由キッチュ行、まもなく発車いたします。
昭和40年代を疾走した、あまりにまじめ過ぎた野次馬の軌跡!
美術評論を主軸としながら「表現」と呼ばれる領域を生活者のレベルから具体的に捉えようと試み、いわゆる「美術」を超えてマンガや演劇、芸能、果ては誰も気にとめない「ガラクタ」の類いにまで論の対象を広げた評論家、石子順造(1928-1977)。一人の評論家を取り上げ、きわめて多岐にわたるその視点を紹介するとともに、石子の眼を通じて1960年代から1970年代にかけての、ひいては日本の文化を眺め、見直します。
Ⅰ.美術―<表現の近代>を撃つ!
大学卒業後から少しずつ評論を行っていた石子は、30代も後半を迎えた1965年、美術評論家として実質的にデビュー。「現代」を捉えるべく猛スピードで同時代の美術論に邁進します。展示冒頭では、石子が論じた作家たちを紹介するとともに、石子が関わった企画の中でもその特異さで近年注目を集める「トリックス・アンド・ヴィジョン展」(1968)を、最新の調査をもとに一部再現します。
Ⅱ.マンガ―「青い目」を開く作家たち
石子のデビュー期は、マンガブームが起こった時代と重なります。生活に密着した表現を求めて美術と同時にマンガを論じ、そこに批評眼(“青い目”)を見て取った石子は、特に劇画や『ガロ』誌を発表の場とした個性の強い作家たちに注目しました。ここでは、伝説の作品つげ義春「ねじ式」の原画全一話分を初公開するとともに、白土三平、水木しげる、林静一など数々の漫画家たちを紹介します。
Ⅲ.キッチュ―匿名表現の彼方へ
石子の本領発揮となる活動期後半を集約するのがキッチュ論です。「まがいもの」「通俗物」などと訳されるこの「キッチュ」は定義の難しい用語ですが、石子は造花や銭湯の背景画といった幅広い民衆の表現をこの用語でひとくくりにして論じ、「近代」が切り落としてきた表現から「現代」を逆照射しようと試みます。ギラつく光に満ちたにぎやかな展示にご期待ください。