荒木高子は、1921年に兵庫県西宮市に生まれました。華道未生流宗家の父・荒木白鳳の死後、荒木は1936年に15歳で家元代行として家業に従事しました。戦後は家業の職務と並行して、関西の前衛美術と積極的に関わりました。1956年には、大阪で白鳳画廊を経営し、荒木自身も石膏やスチールなどを用いたオブジェを制作しました。1961年に渡米し、ニューヨークで彫刻を学びました。当時のニューヨークでは、日本の美術の中で、絵画や彫刻などと比べて、陶芸はほとんど紹介されていませんでした。それが却って、荒木が陶芸に興味を抱くきっかけとなりました。
帰国後の1963年、荒木は西宮市の自宅に窯を築き、陶芸の制作をはじめました。1960年代から70年代は、八木一夫(1918-1979)の影響を受けて制作をはじめた黒陶のオブジェ、やきものにシルクスクリーンの転写技術を取り入れた「プリンテッド・ボールズ」で注目を集めました。1979年に開催された第5回日本陶芸展に出品した「聖書シリーズ(砂の聖書、燃えつきた聖書、黄金の聖書)」は、最優秀作品賞・秩父宮賜杯を受賞しました。以後、荒木は、もろく崩れゆく聖書をテーマにして、自身の心の深淵にある様々な感情をやきもので表現し、日本国内のみならず、海外でも高い評価を受けました。
本展は、荒木の没後はじめて開催される大規模な回顧展です。生涯にわたる陶芸作品とシルクスクリーンの道具をあわせて約70点展示し、荒木が陶芸界に遺した足跡をたどります。