この度株式会社レントゲンヴェルケは、日本橋馬喰町ラディウムに於いて、カンノサカンの個展を開催する運びとなりました。ラディウムにおいては、2009年12月の個展「hunch」より2年ぶりの開催となります。
絵画においての「凍れる音楽」とも言えるカンノの作品はこれまで、音楽経験から学んだインプロヴィゼーション(即興性)と直観によって描かれてきましたが、今回は一転、独特の有機性と最小限の即興性を残しつつ、作品を構造化し要素の関係性により重きを置いた、あらたな発想で制作を展開します。
これは主に、既製のテンプレートや過去の作品画像のトリミングから抽出された線画などでいくつもの小さなオブジェクトをつくり、画面を等分割したグリッドを基に構図を組み立てながら配置し画面の構成を決定するというものです。構成が決まった後、下書きとしてオブジェクトがトレースされ、そこから絵筆をもちます。DAWにおけるスライスのように、分断され出自が異なる断片的なオブジェクトが画面上で関係性を築き、あらたな作品として再構成されるということです。
音楽と美術の両面に常に通底するロジックとコンセプトを用いるカンノは、近年、機材/コンピューター/ガジェットなどの進化により変容、多様化し続ける音楽の生成過程に向き合うことで、自身の絵画作品制作においても徐々に意識の変革が起きました。
再現や規則性から解放され、快適な調和の瞬間をどこまでも自由に探りつづけることができる即興的な描画は、モードジャズにおけるインプロヴィゼーションを聴いているようなダイナミズムと緊張感を画面に閉じ込めることができます。しかしその主体のみに依るジェスチャーは、ともすれば手癖の繰返しと“語彙”の陳腐化を孕みます。自由で無限だと思えた即興の世界にはそれほど奥はなく、むしろオブジェクト化することや、それにより再構成されて生み出される世界こそが無限であり自由であると考えたのです。
今まで以上に視座を高くもった今回からの制作スタイルは、常に自分の表現を俯瞰することで、近視眼的になりがちな制作から脱却するとともに、かつて使った作品の一部さえも要素として取り出すなど、作家自身を制作の主体とせず客体化することを可能にしています。