「時代のスケッチ。人のコレクション」をキャッチコピーに、早稲田大学建築学科の教授であった今和次郎(こん・わじろう、1888-1973)の初の本格的回顧展「今和次郎 採集講義展」で、「パナソニック電工 汐留ミュージアム」の2012年は幕を開けます。
青森県弘前市に生まれた今和次郎は、昭和初期の急速に大都市化していく東京の街の様子や人々の生活の変化を採集(観察し、記録する)・分析した「考現学(こうげんがく)」の創始者として知られています。また、民俗学者の柳田國男らがつくった 民家研究の会「白茅会(はくぼうかい)」の活動に参加したことをきっかけに始めた民家研究の分野でも重要な足跡を残しました。
一方、関東大震災直後、急ごしらえのバラック建築をペンキで装飾した「バラック装飾社」の活動や、米の共同貯蔵倉「郷倉」の標準設計など、積雪地方の暮らしを快適にするための試みに携わった建築家・デザイナーでもありました。さらに戦後になると、日常生活を考察する「生活学」や「服装研究」といった新しい学問領域も開拓していきます。こうした幅広い領域にわたる活動の根底には、都市と地方を行き交いながらさまざまな暮らしの営みを"ひろい心でよくみる"ことを通して、これからの暮らしのかたちを、今を生きる人々とともに創造しようと模索し続けた今和次郎の生き方がありました。東京美術学校図按科(現・東京藝術大学)出身の今和次郎は、卓越したドローイングを通して、教壇からの講義で、あるいは農村で、人々に学問を説き続けたのです。
本展は工学院大学図書館の今和次郎コレクションに所蔵される膨大かつ多彩な資料の中から、スケッチ、写真、建築・デザイン図面等を展示する他、本展のために制作された模型や再現映像を通して今和次郎のユニークな活動を紹介する初の本格的な回顧展です。なお、この展覧会は今和次郎研究に功績のある研究者の学術協力を得ながら、今和次郎の出身地である青森県立美術館と当館が共同で企画開催する展覧会です。(青森県立美術館で2011年10月29日~12月11日まで開催中。)