秋を迎えたフランス・ノルマンディー地方では、林檎の木がたわわに実を結びます。この地にたたずむ小さな礼拝堂は、内部に描かれた林檎の壁画にちなんで「林檎の礼拝堂」として知られています。16世紀に建てられた礼拝堂を作品として再生するという壮大なアート・プロジェクト「サン・ヴィゴール・ド・ミュー礼拝堂プロジェクト」は一人の日本人アーティスト・田窪恭治の手によって1999年に完結しました。
田窪恭治(1949年今治市の生まれ)は、1972年に多摩美術大学を卒業する前後から、絵画や彫刻といった従来の美術の形式をすりぬけ、私たちが息づく社会や日常と地続きの素材を用いたイヴェントやオブジェを発表し注目を集めますが、やがてより積極的な社会との関係性を求め、建築家や写真家とのコラボレーション「絶対現場1987」やロンドンで上演されたオペラ「ゴーレム」の舞台美術制作など、活動のフィールドを広げていきました。そして、礼拝堂との運命的な出会いをきっかけに家族とともにフランスに移住し、前人未到のプロジェクトが開始されました。
本展では、初公開となるドローイングや習作の数々、そして映像資料などを交えながらプロジェクトの軌跡をたどります。また、初期のまばゆいオブジェや渡仏以前の作品もあわせてご紹介します。
田窪は現在、さらなる風景を求めて四国こんぴらさんであたらしいプロジェクトに取り組んでいますが、この展覧会が名づけ難い田窪恭治の芸術の歩みとその先を照らし出す機会ともなることを願っています。