戦後日本の美術史に、 版画家として大きな足跡を残した吉原英雄(1931~2007)の画業を、没後アトリエに残された作品と当館コレクションを中心に回顧する展覧会です。
1931(昭和6)年、広島県に生まれた吉原は、大阪府立天王寺高校在学中に美術に対して強い興味を抱くようになり、芸術家としての歩みを始めることになります。1955(昭和30)年、24歳の時にデモクラート美術家協会に参加し、リーダー的存在であった泉茂に影響を受けて版画の制作を始めます。石版画に取り組み、1957(昭和32)年の第1回東京国際版画ビエンナーレ展には《ひまわり》が入選するなど、物語性を秘めた叙情的な作品で評価を受けます。1960年代になると抽象的な画面の追求へと作風を展開させますが、60年代後半には一つの画面に石版と銅版を同時に用いた表現を開拓。技術的な高度さのみならず、特性の異なる技法を混在させることで、緊張感のある表現を生み出し、国内はもとより国外においても高い評価を得ました。以後もさまざまな技法を用い、ドラマ性のある表現を通して、人間のあり方を描くことに挑み続けました。
存命であれば今年80歳を迎える吉原の没後5年を記念して、その制作の歩みをたどります。