由緒ある貴族の後継ぎとして生まれながら、病気のため両脚の成長が止まるという悲劇に見舞われ、貴族社会から逃れるようにパリの歓楽街に身を沈めたアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)。彼は場末の芸人や下層の娼婦たちと親しく交友し、その姿を赤裸々に、しかも共感をもって描き出しました。同時に彼は、卓越した技量をもつ石版画家としても時代を代表する存在でした。ロートレックは生涯に360余点の石版画を制作、そのうちポスターは31点を数えるのみですが、彼の画業においてはきわめて重要な位置にあります。
ロートレックが最初のポスターを手がけたのは1891年のことです。当時フランスでは産業社会の進展とともに、ポスターが商品を宣伝し情報を伝達するための主要なメディアとして脚光を浴びていました。また美術館に目を転じれば、日本美術の影響、いわゆるジャポニズムが、西洋の絵画伝統を超える新しい絵画を生み出そうとする画家たちに熱狂的に受け入れられていました。ロートレックもその一員でした。彼はポスターという新しい表現の場で、ジャポニスムの影響のもとに大胆な造形世界を展開していきます。
本展はロートレックの没後100年にあたり、当館が所蔵する彼のポスター19点と、同時代のシェレ、ミュシャ、ボナールらのポスターによって展示を構成し、ロートレックと同時代の関わりを考えるとともに彼の独自性を捉えなおそうとするものです。さらにロートレックによる雑誌の挿絵などを合わせて展示、ユーモラスで洒脱な表現世界をご紹介します。
所蔵するロートレックの作品のほぼ全てを一挙に公開するのは当館でも初めてのことです。また今回の展示は、ロートレックのポスターを同時代のさまざまなポスターと比較できる格好の機会です。この好機をどうぞお見逃しなく。