本展は、瀧口修造(1903~1979)の、文字によらない表現行為を紹介するものです。
瀧口は1920年代後半から、詩作、シュルレアリスムの紹介、美術評論など、多面的な文筆活動を始めました。
「瀧口修造の誌的実験 1927~1937」(1967)は、初期の仕事をまとめて30年後に出版された、彼の主著のひとつです。
瀧口が戦後も詩、美術、映画、写真、デザイン、舞踏など幅広いジャンルの前衛的な仕事に立ちあい続け、独自の批評行為を行ない、日本の文化の動向に深い影響を与えたことは、広く知られています。
ところが瀧口は1959年頃から「ジャーナリスティックな論評を書くことに障害を覚え」、エクリチュールの原点を模索しながらデッサンに着手します。
瀧口は戦前にも試作していたデカルコマニー(転写技法)や焼き焦がし(バーント・ドローイング)、本のオブジェといった、さまざまな表現手段を試み、1960年代前半を中心に、造形的な実験に没頭したのです。
彼はこの成果の一部を個展などで発表する一方、親しい友人たちへの贈り物として捧げていました。
瀧口が後半生に心を注いだ、こうした言葉によらない表現行為は、通常の美術作品とは異なった、独自の動機から作られたといいます。
それが何だったのかを改めて今問うことで、戦前、戦中、戦後をとおして瀧口が培った思想に、わたしたちも改めてアクセスすることができるのではないでしょうか。
本展では、故綾子夫人が大切に保管されていた多数の未発表の制作物を中心に、300点余を展覧し、資料と共に瀧口修造の知られざる面を紹介します。