19世紀末、アルフォンス・ミュシャ (1860-1939) は、アール・ヌーヴォーの寵児として一世を風靡しました。植物に着想を得た優美な曲線と、華やかな装飾に満ちた作品は、今も人々を引き付けて止みません。しかし、よく見ると少し怖いものもあります。
この時代の文学や絵画、彫刻等の諸芸術には、人間の精神や夢といった内面的なものや、人知を超えたものを表現しようとする傾向がありました。このような、目に見えないものを探求する性格は、新世紀への期待と、社会が変わることへの不安が反映されたものといえます。ミュシャもまた、精緻な装飾で彩られた「きれい」なモティーフと、神秘的、霊的な「怖い」モティーフを作品に象徴的に表現していました。美しくも狂気を感じさせる女性像や不気味な装飾は、こうした関心によるのかもしれません。
今回は、ポスターや素描、油彩、書籍等から約80点の作品を取り上げます。描かれた物語やモティーフの怖さ、また同時代の芸術傾向を踏まえながらも、きれい・怖いという2つの対照的な視点から、ただ美しいだけではないミュシャの魅力に迫ります。