蚕の吐く糸を紡ぎ、天然の染料を抽出して染め、自在のひらめきと精緻なたくらみを縦横にめぐらせて織り上げる ――――
人間国宝、志村ふくみ氏の紡織は、つよさ、たおやかさ、そして神秘にみちています。さらに、その薫陶を直に受けて育まれ、自身の哲学のもと新たな表現を求める娘、洋子氏。自然界のみならず、古今東西の様々な芸術との交換から生み出された作品は、身にまとうものでありながら、それ自体ひそやかに息づき、語りかけてくることでしょう。伝統文化の継承と技術の研磨にとどまらない真の創造とは何か、という永遠の命題を見据え、ふたり手を携えての歩みは停滞を知りません。
この展覧会では志村ふくみ氏の四十数年におよぶ創作活動の精華と洋子氏が加わっての未来への提言を伴せ、志村芸術の総覧を試みるものです。美の世界における理想の都を目指す染織家の過去、現在、未来―細見美術館のすべての空間に展開される、華やかな祝祭をお楽しみください。
※なお本展出品作の一部は、志村ふくみ、洋子両氏が率いる若き染織家集団「都機工房」による制作協力を得たものです。