人間は昔から、身の回りの人や動物、自然など目に見える世界を写し取って絵を描いてきました。しかしその一方で、神話や聖書の内容、空想の世界などを画家の想像力を膨らませて制作する、つじゃり目に見えるものではなく心に浮かんだイメージを作品化する絵画も同時に存在しました。
19世紀後半は、目に映る光や色の変化を追究した印象派が一世を風靡していました。しかし、それと同時期に、印象派とは対照的な神秘的・宗教的な主題を扱ったのが象徴派です。その代表的な作家の1人オディロン・ルドン(1840-1916)が手掛けた最後の石版画集《聖ヨハネ黙示録》は、新約聖書の巻末にある書をもとに制作されたもので、聖書の視覚化という伝統的な手法を用いながら深い精神性をたたえています。
そして、20世紀前半に生まれたシュルレアリスム(超現実主義)の画家たちは、意識化の世界を様々な方法で引き出して作品化しました。マックス・エルンスト(1891-1976)の《博物誌》は、フロッタージュ(こすり絵)の技法を用いて版画にしたものです。鉛筆で紙に擦り取られた文様からイメージしたものを作品にし、さらに思いがけないタイトルをつけられた版画集は、観る者を不思議な世界へいざないます。二人の作家による豊かな想像力から生まれた作品をお楽しみください。