自然の美しさや生命の神秘を描き続ける日本画家・堀文子。1939年、女子美術専門学校(現・女子美術大学)在学中、新美術人協会展に初入選、第二次大戦後も、創造美術、新制作協会、創画会と革新的なグループで活躍を重ねました。風景や動植物など自然界に取材した初期作品には、既に旧来の日本画とは一線を画し、西洋絵画の表現をも取り入れた新しい絵画を目指す強い意志を見ることができます。
1961年には、エジプト、ヨーロッパ、アメリカ、メキシコなどを単身で巡り、異国の文化を探求します。3年に及ぶこの欧米旅行は、異国を主題とした斬新な作品を生む一方、堀文子が日本画と向き合い、画家として再出発を果たす契機ともなりました。その後、49歳の時に東京から神奈川県大磯町に転居、12年後には軽井沢にアトリエを構えて大磯と行き来する生活を始めます。さらに69歳で単身でイタリア・アレッツォ郊外にアトリエを構え、6年間にわたり日伊を行き来して豊かな自然に取材した作品を描きました。
自身の感動に根ざした独自の表現と新しいモチーフを常に求めて、堀は80歳を越えても中南米やネパールなどへ取材旅行を行い、異境の風景などに取材した作品を発表します。80歳代半ば以降は、顕微鏡下の微生物や中国古代の甲骨文字など神秘的な自然世界と不可思議な歴史世界からインスピレーションを得た作品で新境地を開き、90歳を越えた現在も、飽くことなく創造を追究し続けています。こうした堀文子の長期に及ぶ創造の歩みと人生に対する姿勢は、多くの人々から感嘆と共感をもって支持されています。
このたびの展覧会では、多様な関心を示す近作、これまで紹介されることのなかった未公開作品、雑誌の原画やデッサンなどを幅広く展示し、多面的な堀文子の芸術世界をご紹介します。