現代日本を代表する写真家・東松照明(1930-)は、写真というメディアの記録性を活かしながら、敗戦からのわれわれ日本人の精神の在り処をその深奥から浮かび上がらせて見せます。1930年に名古屋市東区新出来町に生まれた東松は、20歳の時に写真に出会い、愛知大学を卒業後、上京し岩波写真文庫のスタッフ・カメラマンとしてそのキャリアを始めました。戦後の日本が抱える矛盾や問題を、従来の報道写真とは異なる手法で提示するその表現は、日本の写真の“ヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)”としてはやくから注目されました。
「被爆」の精神的葛藤を追及し、写真家のライフ・ワークともなった〈長崎〉シリーズ(1961-)。占領と独自性が屹立する沖縄の精神性を注視した『太陽の鉛筆』(1975)。現在も継続して撮影され続けているこれらの作品郡は、歴史や時間の経過はもとより、観る者に「いま」を強く意識させる、優れた“叙事詩”へと結実しています。今回の展覧会は、60年に及ぶ写真家・東松照明の表現の集大成を見せる本格的な回顧展です。