食に対するたぐいまれな美意識をもち、料理を盛りつける器までを自ら手がけた北大路魯山人(1883-1959)の陶芸作品をご紹介します。
魯山人は京都に生まれ、16歳から書・篆刻で名を知られました。多くの豪商とつきあい、美意識をみがいた魯山人は、美術骨董店「大雅堂美術店」を経営し、1921年38歳の時、その2階に高級料理店「美食倶楽部」を開きます。「美食倶楽部」はやがて評判の高級料亭「星岡茶寮(ほしがおかさりょう)」へと発展しました。
自作の器で料理をサービスしたいと考えた魯山人が、本格的な作陶活動に入るのは40歳を超えてからのことです。書で鍛えた確かな筆さばきによる自在な絵付け、古陶磁の研究をもとにした織部焼や志野焼の新たな創造など、独自のセンスが光る陶芸作品の数々が、世に送り出されました。
現在では、グルメ文化の先駆者、美的空間の総合プロデューサーとして高い評価を得ている魯山人ですが、貧しく苦労した子供時代、茶寮の奔放経営による解雇処分、息子の死など、その人生は苦難と喪失の連続でした。魯山人の強烈な個性のうちには、美に拠って生き抜いた芸術家の魂があり、それ故その作品は今なお、多くの人々を魅了し続けています。
本展は、公立美術館としては最大のコレクションを収蔵する世田谷美術館の協力を得て、魯山人の支援者であった利根ボーリング社創業者塩田岩治夫人サキ様の寄贈コレクションから、陶磁器を中心に123点を展覧します。