幕末の開国と時を同じくして、日本にもたらされた写真。芸術作品に用いられる、つまり、美術館である当館にとって「夜明けとなる以前」の写真は、いったいどのようなものだったのでしょうか。そして、それらに宿る作品性とはどのようなものなのでしょうか。江戸時代の日本にとって写真は、西洋技術の象徴でした。日本最古の写真は、ペリー艦隊の従軍写真師が撮影したものです。やがて横浜や長崎などが開港し、訪日する写真師との関わりから、江戸の鵜飼玉川や開港地の上野彦馬・下岡蓮杖(しもおかれんじょう)など、日本人の写真師が各地に現れます。そして、西洋的近代化へ向かうとともに、その技術はさらに次の世代へと伝承されていきました。
シリーズ第三弾となる本展では、関東編、中部・近畿・中国地方編に引き続き、現存する貴重なオリジナルの写真作品・資料を展覧します。出品作品は、当館収蔵作品および協力機関である日本大学芸術学部の収蔵作品のほか、四国・九州・沖縄の公開機関を持つ約2,200の施設へ収蔵調査を行い、所蔵が明らかになった多くの未公開作品を含みます。
未公開の作品群は必ず新たな写真史のページを紐解き、同時に、これら幕末~明治時代中期に制作された写真作品によって時は飛び越えられ、19世紀の日本および日本人の姿が絵画とは異なる直接的な現実感をもって眼前で躍動します。本展は、現在にまで伝わる貴重な写真に触れる希有な機会となるとともに、表現という概念が存在しなかった時代の写真にも作品性が根源的に宿ることを実際のモノによって体験できる場となるでしょう。