ホンマタカシは、現代の写真表現において第一線で活躍し、国際的に注目されている日本人写真家の一人です。対象との独特な距離感や冷めた色合い、感情を持ち込むことを避けたクールな視線を特徴とするホンマの写真はこれまでも高い評価を受けてきました。80年代後半から広告やファッション誌を舞台に活動し始めたホンマは、90年代初めにロンドンへ渡り、先鋭的なカルチャー誌『i-D』で仕事をしながら、様々な方法で写真を制作する可能性に触れていきます。帰国後も雑誌メディアを中心に活動を続けながら、自身の作品をさまざまなシリーズにまとめ、99年には東京の郊外風景と人々を撮った写真集『東京郊外』で、木村伊兵衛写真賞を受賞。現在に至るまで、続く世代の写真家たちを牽引する作品を国内外で発表し続けています。
美術館におけるホンマの初の個展となる本展は、2005年以降に手がけた作品群を中心に、美術館の空間に応じて作品のセレクションを少しずつ変えながら、現在のホンマタカシの全貌を伝えようと試みています。ホンマはしばしばスーザン・ソンタグの言葉「Photography is,first of all,a way of seeing. It is not seeing itself(写真とは何よりも一つの見方であり、見ることそれ自体ではないのだ)」に触れ、自身の作品について「写真を使った世界の見方をさまざまに問いかける試み」であると語ります。
写真というメディア自体を問うこの姿勢は、写真プリントだけではなく、写真を元に制作されたシルクスクリーン、インスタレーション、映像作品と多様な形態をとる本展の展示作品すべての根底に貫かれています。カメラという装置で被写体をとらえる写真を通して、現実、記憶、そして世界とどのように向き合うことができるのか̶̶作家自ら名付けたタイトル「ニュー・ドキュメンタリー」は、こうした写真表現の多様性、多義性を踏まえたしなやかなアプローチであることにもご注目下さい。