岡山出身の文筆家、内田百閒の生誕100年を記念して発足した「内田百閒文学賞」は、今回で節目となる10回目を迎えます。それを記念し、岡山県郷土文化財団との共催で、特別企画「内田百閒と谷中安規」を開催します。
内田百閒(1889~1971)は、岡山市中区古京町に造り酒屋の一人息子として生まれました。1922年『冥途』の出版を皮切りに、1933年の著作『百鬼園随筆』が評判を呼んだのをきっかけに人気作家となりました。随筆にすぐれ『ノラや』『阿房列車』などは、今も多くの人に読み継がれています。
ユーモア、諧謔、天真爛漫、偏屈、といった印象の彼の著作を飾った数々の装丁者のうち、戦前に多く関わったのが、版画家の谷中安規(1897~1946)です。安規は独学で木版画を学び、料治熊太の主宰した『白と黒』『版芸術』誌や日本版画協会展などに作品を発表しながら制作を行っていました。百閒は、貧困を抱えながらも飄々とした幻想世界を表現する安規を「風船画伯」と名付け、敬愛し思いやりました。それは戦中をはさみ、戦後まもなく安規が亡くなるその時まで続きます。
本企画では、まずは内田百閒の仕事を岡山県郷土文化財団の所蔵する貴重な装丁本や古里岡山に関する資料を中心に紹介します。続いて谷中安規の、時に奇怪で幻想的な世界が奔放に展開する版画作品を展示。そして二人の仕事として最も充実した成果を見せた『王様の背中』肉筆扉絵入り本や『居候匆々』等の装丁に加え、安規の書簡などの資料を通じ、二人のユーモアあふれる交流を紹介します。