いずれも重要文化財として名高い「麗子像」や「道路と土手と塀(切り通しの写生)」を描いた岸田劉生は、肖像画や風景画、また静物画など、あくまで写実に基礎を置きながらも独自の美意識をもって数々の傑作を生み出し、日本近代美術史上、屈指の天才画家として、今なお高い評価を受け続けています。
17歳で黒田清輝が主催する白馬会洋画研究所に学び、2年後には第4回文部省美術展覧会に入選するなど早くから才能の片鱗を見せた劉生は、雑誌「白樺」を通して知遇を得た武者小路実篤など白樺同人との交流から「第二の誕生」を自覚、後期印象派の洗礼を受けながらも一転して、描くべき対象の内面にまで分け入るような精妙で神秘的にさえ見える写実を求め、「内なる美」の探究という他者の追随を許さない前人未到の困難な課題へと向かいます。さらには、宋元絵画や初期肉筆浮世絵、また南画などの東洋画への関心は、「でろり」という劉生独特の美意識に結実しました。
夭折とも言えそうな38年の、けっして長くはない劉生の人生は、一連の麗子像に見られる周囲の人たちへの温かな眼差しと、画家として描くべき対象への厳しい視線が交錯し、日本人が油彩画を描くことの困難と可能性を全身全霊をもって示したものでした。
本展は、劉生の代表作だけでなく、「岸田の首狩り」と評判になった肖像画、風景画や静物画の数々、誰もが一度はみたことがある「麗子像」も数多くご紹介し、“近代洋画界の巨人”岸田劉生の生誕120周年にふさわしい大回顧展です。