日本を代表する銅版画家、浜田知明は大正6(1917)年、熊本県に生まれました。東京美術学校西洋画科で鹿児島出身の藤島武二に学びますが、卒業後間もなく陸軍に召集され、中国大陸に派遣されます。この戦争体験が、戦後の制作活動に決定的な影響を与えました。昭和25年から銅版画の研究をはじめ、戦争という極限状態において露呈される不条理を黒と白の世界に凝縮した作品《初年兵哀歌》のシリーズを生み出したのです。社会を見つめる鋭い視線は、やがて人間の愚かさを風刺を込めて描く作品群へと連なっていきます。
本展覧会では、当館元館長の故四藏典夫によるコレクション78点を紹介します。その内容は、戦後最初期の《幼きキリスト》から、《初年兵哀歌》、銅版画集『わたくしのヨーロッパ体験記』(1970年)や『小さな版画集』(1992年)にいたるまで、幅広いものです。社会と人間の関係や人間の内面を批判的に、しかし愛情を込めて描いた浜田知明の作品をご鑑賞いただければ幸いです。