春の所蔵品展では「東洋を描く湘南の洋画家たち」と題して、洋画家として出発しながら、日本的・東洋的な世界にまなざしを向け、題材として描いた画家たちの作品をご紹介いたします。
岸田劉生(きしだ りゅうせい1891-1929)は、近代日本を代表する洋画家で、北方ルネサンス絵画に影響をうけた写実様式に特徴があります。劉生の主宰する「草土社」には、その表現に共鳴した河野通勢(こうの みちせい1895-1950)や椿貞雄(つばきさだお 1896-1957)が集いました。三人はそれぞれが、油彩による日本的画題の表現を目指しました。
井上三綱(いのうえさんこう 1899-1981)は、戦後、禅をはじめとした東洋思想に傾倒し、キャンバスや油絵具と、日本画材料である胡粉を併用して、モダンな線描による作品を制作しました。二見利節(ふたみりせつ 1911-76)は井上三綱に師事した画家で、九死に一生を得た戦争体験、そして神道などの影響から、独自の宗教観による色鮮やかで特異なパステル画を数多く残しました。鳥海青児(ちょうかいせいじ 1902-72)は、ゴヤやドラクロアから影響を受け、雄大な大地の表現、また形態の抽象化・単純化による表現を行う一方、油彩で日本の風土をいかに描くかを探究しています。田澤茂(たざわしげる 1925-)は、故郷津軽の民話、羅漢や地蔵などの愛らしい群像を描き、近年の「魑魅魍魎」シリーズでは、欲に走る現代社会を諷刺しています。平野杏子(ひらのきょうこ 1930-)は、60年代に仏教に基づいた抽象的で幻想的な画風を確立して大作を発表し、近年の「オトタチバナヒメ」の版画シリーズは、9月11日のニューヨークのテロ事件の直後に制作されました。
出品作家たちは、いずれも西洋の技法を学びつつ、東洋の精神に共鳴して、個性豊かな作品を描き出しました。現代を生きる作家たちはまた、造形の問題にとどまらず、鋭い批判精神をもって、現代社会の抱える問題にアプローチしています。この機会に約45点の作品による、彼らの多彩な表現をどうぞご鑑賞ください。