伊砂利彦は、2010年3月に86年の生涯を閉じました。一周忌を前に、当館収蔵の「沖縄戦で逝きし人々にささげる鎮魂歌」、「長唄娘道成寺」を始めとする40点の作品を展示し、伊砂利彦の芸術と生涯を振り返ります。
伊砂利彦は、1924(大正13)年京都に生まれました。京都市立絵画専門学校卒業後、家業の染物の仕事に就きます。その傍ら、工芸作家として型絵染の作品を、新匠工芸会などで発表しました。
伊砂は、陶芸家富本憲吉の言葉「模様から模様を創らず」を信条としていました。その意味について伊砂は「参考本から引出してきた模様を使わず、自然を熟視し、心に感じたものを描き写し、それから模様を創る」ことと述べています。
この言葉どおり、伊砂は自然の中から斬新なかたちを見出しました。松の枝葉を再構築した<松>、水の波紋がみせる一瞬の美を追求した<水>、さらにはドビュッシーやムソルグスキーらの音楽から受けるイメージを造形化した<音楽>などの連作は、伊砂の独創的な視点と確かな表現力のなせる技です。また、染織家志村ふくみとの合作は、一家をなした作家による、友好的でありながら緊張感みなぎる共同制作の産物です。
自然を深く観察して得られた斬新な模様を、的確な技術でかたちにした伊砂利彦の作品を、この機会にご覧ください。