純粋に美術という視点に立つと老人と幼児は異種同型です。幼児は今日できないことが明日できるが、老人は今日できることが明日できないかもしれません。一方は「生」きることしかなく、他方は「死」いものぐるいです。美は本来、童の世界と翁の世界にある至高遊びではないでしょうか。
松本市美術館では、幼児の見る眼差しに沿うて日々新しく還暦している高齢者の公募展を、ぜひ実現したいと企画しました。これは「童と翁」の眼の合体した美術であり、美学です。彼ではないが美しい世界、巨大ではないが強い世界、技巧はないが技巧を超えている世界、画法・画論に還元できないもう一つの美術を「翁」に求めています。
本展は、70歳以上を対象にした平面作品の全国公募展として高齢化社会、大人の美術館に向けて、本美術館の核にしたいと考えます。隠れた才能に陽を当てる、若い画才を見い出すなど新人発掘が常套の美術館にあって、この企画はいままで美術界が欠落させていた美の王道の試みではないでしょうか。「老いるほど若くなる」を見えるものにできる唯一の趣向が美術だからです。